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ミリドニアなう

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タイムリミット

ラブエン後リオアニss
平成最後の~~じゃないですが、なんかそんな感じでポエム感ある話になってしまった。
今年は流石に異常気象だったけど、夏は好きです。



 アニとリオットはゆっくりとした足取りで緑の山々に囲まれた田舎道を歩いていた。
 無理矢理予定を合わせて実現した一日限りの逢瀬。久々の再会で綻ぶ顔を止められなかったのは二人とも同じだった。幸せそうに微笑むアニとリオットの姿は誰の目にも――イナコの片田舎に住むおじいさんやおばあさんの目にも「仲睦まじい恋人同士」であることは明らかだった。
 アニは最近起こった出来事を夢中でリオットに話し、また熱心にリオットの話に耳を傾けた。会話が途切れても、隣にリオットがいる喜びに静かに身を浸していた。そして、幸せを感じれば感じるほど、別れの時の胸を切るような痛みが思い出された。足元に伸びる影が先程よりも長くなっていることには気づかないふりをして、アニは辺りを見回した。道端に立ち並ぶ向日葵はすっかり花弁を落とし、かさかさになってうなだれている。空はまだ青く、白い雲とのコントラストが美しい。照りつける日差しに焼かれ、リオットが手の甲で額の汗を拭った。
「そうだ!リオットさん、いい所に案内します」
 アニはそう言うと、ひょいとけもの道へ踏み込んだ。
「姫、――」
「あ、足元気をつけてくださいね!」
 今まさに自分が言おうとしたことを先に言われ、リオットはやれやれとため息をつく。そしてその目を優しく細めると、たくましすぎて時折少々危なっかしい恋人の後を追った。
 道とも呼べない道は沢に続いていた。生い茂る木々が陰を作り、葉の隙間から零れた光が澄んだ水面にキラキラと反射している。ひんやりとして心地よい空気を肌に感じ、なるほどこれはいい場所だと納得しているリオットをアニが呼ぶ。
「リオットさん、冷たくて気持ちいいですよ」
 アニは沢の水に自分のハンカチを浸していた。それを軽く絞ると、ぐっと腕を伸ばし隣に歩み寄ってきたリオットの頬にあてた。
「ほら」
 リオットの鼓動が大きく跳ねる。その衝動に任せて頬に宛がわれたアニの手を取ると、引き寄せて口づけを落とした。アニが一瞬の驚いたような表情の後すぐに嬉しそうに微笑んだのを見て、リオットは二度、三度と唇を触れ合わせる。ようやくリオットから解放される頃には、アニの顔は真っ赤に染まっていた。
「もう……これじゃ自分の顔を冷やさなきゃならないです」
 そう言って両手を頬にあてるアニを、リオットは愛しげに見つめていた。
 二人は水辺で涼みながら、他愛もない話をして過ごした。しばらくして、おもむろにリオットが立ち上がった。
「……そろそろ戻ろう」
 訪れた時よりも降り注ぐ日差しは弱くなり、木に囲まれたその場所は既に薄暗くなっていた。そうですね、と頷きアニも立ち上がる。そして、どちらからともなく伸ばした手をつなぎしっかりと指を絡め合うと、もと来た道へと歩み出した。
 アニとリオットは、イナコとミリドニアの国境へと続く道を言葉少なに歩いていく。そんな二人の背中を涼しい風が吹き抜けた。つい数日前までは陽が落ちても吹く風は生暖かかったというのに、いつの間にか次の季節が一歩また一歩と近づいていることをその温度で思い知る。
 暑い季節が終わる。
 今日が終わる。
 ――愛する人と過ごせる時間が終わる。
「……次は、いつ……」
 言いかけて、アニはしまったと口をつぐむ。リオットが職業柄なかなか私的な予定を立てられないことをアニはよく知っていた。そのため、次に会う約束を求めてリオットを困らせるようなことはしまいと心に決めていた。決めていたのだが、寂しさに耐えきれずに言葉が口を突いて出てしまった。
「……いえ、何でもないです」
 どう考えても手遅れだったが、アニはそう言って無理矢理ごまかした。
リオットが足を止める。アニもそれに合わせて立ち止まると、顔だけそちらに向けて隣を盗み見た。
「アニ姫」
 リオットが落ち着いた声でアニの名を呼び、ひとまわり小さな手を包み込むように握った。
「約束は必ず果たす。……だから、もう少しだけ待っていてほしい」
 大切な約束を、リオットは再び口にした。静かで力強いその響きには一つの迷いも感じられない。リオットはアニを抱き寄せ、確かめるように告げる。
「次またこの景色を見る時には……貴女は私の妻だ」
 アニは心の中でリオットの言葉を繰り返す。
「そっか……うん、そうですね」
 顔を上げてアニは言う。
「そう考えると、なんだか今日一日も、とても貴重な一日だった気がしてきます」
 今日は恋人のリオットさんと過ごす最後の夏だったんですね、とアニがはにかんで言うと、ふっと笑うような声と共に、抱きしめる腕の力がわずかに強くなる。
 「その日」が必ず来るとわかっているのなら、この寂しさをやり過ごして頑張れる気がする。そして次の夏には、こんなにも切なく胸を焦がした日を懐かしく思い出すのかもしれない。黄金色の夕日に照らされながら、アニもリオットの広い背中に腕を回すと、その想いを刻みつけるようにぎゅっと抱きしめた。

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