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ミリドニアなう

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戦兎月に帰らず

前回お礼するの忘れしまったのですが、以前の分も合わせて拍手ありがとうございます!

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まだウサギフィーバーが続いております。
というわけで、あやかしリオアニSSです。





それは満月輝く夜のこと。

宵の口の月の光は山の麓の少し寂れた神社にも降りそそぎ、明かり窓から射し込んで部屋の内を照らす。いつもより辺りが明るいことに気づいたアニは、強い光に誘われるように外へ出た。

「わあ、まんまるだあ」

空を見上げ、アニは感嘆の声を上げる。そして、正円を描く月を眺めながらふと、ここのところよく社に来る兎のあやかしのことを思い出す。小さな獣のあやかしでありながら東の守り手を担う戦兎のリオットが、月の満ちる今夜その「月」に里帰りするのだという。
月は丸く大きくて、まるでいつもより近くにあるかのようにアニには感じられたが、山の頂より遥か高い空の上で輝くその存在は、地上に生きる人にとってはあまりにも遠い。
リオットはもう月に着いただろうか、故郷の仲間との再会を喜んだりしているのだろうか、とアニは思いを巡らす。

「リオットさん」

アニは月に向かって呼びかけた。届くはずがないことはわかっているため音量は控えめで、ほとんど独り言のようだった。
しかしその時、鳥居のすぐ側でかすかに物音がした。アニがそちらに目を向けると、背の低い茂みから見慣れた長い耳の先が覗いていた。

「えっ、……リオットさん?!」

アニが下駄をからころ鳴らして駆け寄ると、ぼんっという音と共に獣が白煙に包まれ、長い兎の耳はそのままに、筋骨隆々とした人間の大男に変化したリオットが姿を現した。

「月に帰ったはずじゃ……?これから行くんですか?」
「我らの土地のあやかしの一部に不穏な動きが見られるため、帰省は取りやめました」
「ええっ、それは残念ですね……何年振りかの里帰りだったんですよね?」
「残念ではありますが、またの機会があるでしょう」

リオットは淡々とした口調でそう語った。
聞けば、帰省を中止したリオットは、怪しい者がいないか領内を見廻り、その足でこの神社まで来たのだという。アニはリオットがこの地を気にかけてくれたことを知り、その気遣いに感謝の念を抱く。

「この一帯の安全を確認したら戻るつもりでしたが……貴女の声が聞こえた」

先程の自分の行いに言及され、アニは少しばかり気恥ずかしさを覚えた。

「あれは、その……月を見てたら、リオットさんがあの満月のどこかにいるのかなーとか気になって、つい」
「…………そうでしたか」

なおも煌々と輝く月に照らされながら、リオットが静かに告げる。

「では、いつか月に帰ったその時は、私が月から貴女の平穏を願いましょう。まあ、巫女様の祈りと比べれば、私のそれなど大したしるしを現さないでしょうが」
「そんなことありませんよ!リオットさんのお祈り、とってもご加護がありそうです」

アニの言葉にリオットの表情も僅かに緩む。しかし、続く言葉を聞いて、リオットは一瞬心を大きく乱した。

「でも、できればずっとこうしてそばでお話ししていられたら嬉しいです」

リオットが息を飲んだことにアニは気づかなかった。リオットが黙り込んでしまったので、不思議に思ったアニはその顔を覗き込む。それと同時、リオットが口を開き重々しく言った。

「巫女様、そのようなことは軽々しく口にすべきではない」
「え……?」
「その気になれば、たとえ取るに足りぬ卑小なあやかしであっても、その妖力と腕力をもって貴女を強引に我が物にすることもできるのだから。特に――」

そこで一旦言葉を切ると、リオットはアニから視線を外し空を見上げた。

「――このような満月の夜は」

リオットの瞳が月光を受けて鋭く光る。
ぴんと張り詰めた静寂の中、早くなる胸の鼓動がリオットに聞こえてしまうのではないかとアニは思った。そして、あやかしのものとなるとはどういうことなのかとリオットに尋ねたかったが、今はそれを訊いてはならないと悟り、何故それを知りたいのかという自身への問いかけと共に胸の内に留めておいた。

それは巫女が戦兎に嫁ぐ前の、満月輝く夜のこと。

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