練習 Ib 2013年06月26日 ssというものを書きたいけれど、そもそもまともな日本語の文章を書けている自信がないので、まずは文章を書く練習をしようと思った次第であります。そのため本編のシーンを妄想で肉付けしただけの文章です。ヤマとかオチとか無いです。ブログに上げて読めるかというテストでもあります。とにかく練習です。さて、どうなることやら…。 ◆◆◆ぐらり、少女の身体が傾ぎ、そのまま床に崩れ落ちた。「イヴ……イヴ!」ギャリーの呼ぶ声に応えることも出来ず、イヴはそのまま意識を失った。それは、次々に動き出し襲い掛かってくる絵の女と首の無い像から逃げ延びて、やっと一息ついた直後のことだった。不安と焦りがギャリーの胸の中に広がる。美術品に対して抱くものとは違う恐怖心が湧き上がるのを必死で堪えながら、ギャリーは身を屈めイヴの様子を窺った。倒れてもなおその手に握られている薔薇にはちゃんと花びらが付いている。肩や胸がかすかに上下していることから呼吸も出来ているようだ。顔色は、元々血色が良いとは言い難かったものがさらに青ざめているように見える。命に関わる容態ではないらしい、そう判断するとギャリーはふ、と息を吐いた。「どうしようか……」どこか安全な場所でイヴの回復を待ちたい。後方にはたった今自分達が通ってきたドア。あのドアを一枚隔てた向こうにはゲルテナ作品が薔薇を求めて蠢いている。それを思うと少しでもそこから遠ざかりたかった。しかし、この先は未知の世界。もしかしたらまたあの女の絵が待ち構えているかもしれないし、それ以上に恐ろしいものが存在しているかもしれない。どう行動するのが正しいのだろう。今までは些細なことも二人で決めてきた。話し合う、なんて大げさなことではなくただ「そうだね」と頷いたり「どうだろう」と首を傾げたりするだけのやりとりだったが、それがどれだけ心の支えになっていたのかを痛切に思い知る。イヴが答えてくれない。不安が、恐怖が、焦りが、ギャリーの胸の中で膨らんでいく。ギャリーはもう一度今来た灰色のドアを見て、その反対側の薄暗くてよく見えない進路を見て、それでも尚決断できなくて縋るように正面を見れば大きな顔の絵が嗤っていた。ざわりと胸が騒ぐ。背筋が冷たくなる。もうどうしようもなくなって俯いた視線の先に、倒れ伏したイヴの姿があった。イヴが倒れている。そのことを再び認識した瞬間、燻っていた思考に風が吹き渡ったかのように頭の中がクリアになる。今しなくてはならないこと。それのためには自分が少しぐらい怖い目にあったり痛い思いをしたりすることになんか構っていられないのだ。「ちょっと失礼するわね」イヴには聞こえていないのを承知で、それでも一言断ってから、ギャリーはイヴの身体を抱き上げた。予想したよりも軽くて細いイヴに心臓が締め付けられるような痛みを覚え、抱える腕に力が篭る。「どこか落ち着ける所で一休みしましょうね」ギャリーはイヴに微笑みかけると、未知の領域へ一歩踏み出した。強い意志を宿して歩き出したギャリーは、拍子抜けするほどあっけなく安全そうな小部屋に辿り着いた。先程散々迷った上で固めた決意は何だったのだろうかと思わないでもなかったが、これでゆっくりとイヴが回復するまで待てるのだから他には望むべくも無い。部屋を一回りして危険が無いことを確かめると、ギャリーはそっとイヴを床に下ろした。こんな固い床の上に転がすように寝かせるのはかわいそうだが他に方法も無いため、せめて寒くないようにとギャリーは自らのコートを脱いでイヴに掛けてやる。そして、皺一つ無いいかにも質の良さそうな服を身に纏ったイヴが自分の着古したデザインコートに覆われているのを見て「不釣合いだな」などと思う。このような状況に陥らなければ出会うこともなかったであろう少女。普通の日常ではこんな小さな子供となんて話す機会も無いし……と、そこまで考えて、ギャリーはイヴの年齢を知らないことに気づいた。もっとイヴのことが知りたい。そして恐怖や不安を抱えているなら、内に溜め込まずに吐き出して欲しい。つまり……自分を頼って欲しい。ギャリーとイヴの関係は、イヴがギャリーの青薔薇を『青い服の女』から取り返して来たことから始まった。それに恩を感じていたから、次は自分がイヴを助けたいと思っていた。しかし実際はイヴが抱え込んでいるものに気づきもせず、彼女が倒れるまで無理をさせてしまった。イヴは命の恩人だからその借りを返したい、そう思っていることは確かである。でももはやそれだけではなくて、もっと大事で、もっと、もっと――無意識にギャリーはイヴの方へ手を伸ばしていた。ハッとして動きを止めたギャリーには、自分が手を伸ばして何をしたかったのかわからなくなっていた。ギャリーは伸ばした手をどうしようか少しばかり悩む素振りを見せた後、イヴの乱れた前髪を優しく指で梳くと、それで満足したのか立ち上がる。あまり近くでジロジロ見ていたらイヴが休まる間もなく目を覚ましてしまうかもしれないと思い、静かに離れていく。しかし数歩歩いて立ち止まったギャリーは振り返ってもう一度イヴを見る。伏せられた瞳、影の差した顔、コートに包まれた小さい身体。そして、手には、気を失っても決して離すことのなかった赤い薔薇。それを目に留めると、ギャリーは心の中で呟いた。「イヴが元気になるまで待ってるわ。 だから、元気になったら――ちょっとお喋りしましょう」