雨とカエル DxP 2017年10月15日 これで完成ということにする!リオット√6章始めあたりの話。本文は折りたたんだ続きから。これはpixivにも上げる予定。自己満足で書いてるし人が読んで面白い文章でないことはわかってるけど、自分的にはだいぶ頑張って書いたので読んでもらえたらいいな、みたいな…とにかく、ハロウィン後半戦が始まる前に終わってよかった。ハロウィンリオットめっっちゃかっこいいですね。マフィアとか去年のハロウィンではワイルドさを押し出した(?)衣装だったので、洒落た感じの衣装は希少価値というかwリオアニがラブラブだったらホラーなエンドでも、というか自分はホラーでラブは基本だった…なにしろルート解放後のリオットさんは調子乗ってるから(最高)、そのままいっちゃっていただきたい。 ■戦場に響き渡る鬨の声。侵略する国と防衛する国、2国の軍隊がぶつかり合う。この戦いに敗れればもはや侵略軍の勢いは止められない。後がない状況であることを理解している防衛軍の兵士たちは、決死の様相で敵軍へ突撃する。そんな相手の気迫に怯みもせず、侵略国、ミリドニアの騎士リオット・ヴォルテは猛然と前線へ斬り込んでいった。戦況は明らかにミリドニア軍が優勢だった。もはや風前の灯火であるこの国の支配者層が、己の権力や財産を失いたくないがために降伏勧告を受け入れず、そのせいで戦がここまで長引いたのだとリオットは聞いていた。そしてそんな「よくある話」は、彼が気に留める必要のないことだった。リオットの鉛色の瞳がぎらりと光り、口からは笑い声が漏れ出した。高笑いをあげ身の丈ほどもある大剣を振りかぶるその様は、まさに狂戦士。リオットの為すべきことはただ一つ、王の剣となり、王に勝利を捧げること。なぜなら、絶対的な強者である王の下で自らを鍛え戦い続けることこそがリオットの望みであったから。そして、そう望んで王に忠誠を誓ったから。揺るぎない信念を胸に、リオットはひたすら前だけを見据えてその剣を振るい続けた。とても大切なことを忘れていることに、気づかないまま。+ + +ミリドニアの王都グルカオンから少し離れた街道を走る一台のキャラバン。その馬を駆るは、行商の娘……ではなく、イナコの姫。「それにしても、いきなり市場を出るって言われてビックリしたのリン」「急にごめんね。せっかく丸一日使えるから、お城から少し離れたところでお店をしたくて」姫のマスコット、もとい守護獣グリまるに答えるアニが申し訳なさそうな表情になる。ミリドニア国王が病に倒れたとの一報が届いて以来、グルカオン城内では警戒感が日増しに高まっていた。姫とはいえ他国の者が用もなく訪れていける雰囲気ではなくなってしまったため、アニはこの日、ここしばらく日課となっていた登城を控えることにした。そして、城に行かないのならば行先はひとつ、と言わんばかりに城下のキャラバンへと直行したのだった。「アニとのおでかけはうれしいから問題ないのリン!」謝るアニに、グリまるは元気よくぼよんと弾んでみせる。そんなグリまるを見て笑顔になったアニは、ありがとう、と返事をすると、目的地へとキャラバンを走らせた。数刻後、キャラバンが停まったのは郊外の広場だった。付近の町の住人と王都を目指す旅人たちが行き交うため、城下の市場ほどではないが人通りの多い場所だった。今日一日ここでしっかり稼ごうと、気合い十分で店を広げるアニ。しかし、ふと太陽がどんどん陰っていることに気づく。これはまずいんじゃ、と思っている間にも雲は広がり、やがてぽつりぽつりと雨粒が地面を濡らしていった。「ここに来て、雨ー!?」アニのやる気に配慮などしてくれるはずもなく、雨はどんどん勢いを増すばかりだった。「これは、止みそうにないなあ……」そう独り言ちてアニはため息をつく。もしかしたらあと少し待てば止むかも、という希望はもうずっと打ち砕かれっぱなしだ。ざあざあと降り続く雨。もはや広場を通り過ぎる人影もない。目を凝らしても、雨のせいでうっすらと白く靄がかかったようになっていて、遠くの方の様子を窺うこともできない。グリまるは雨音を子守歌代わりにお昼寝中。いつまでも降り続く雨。不意にアニはまるで自分がひとりぼっちでこの雨の中に取り残されてしまったような錯覚を覚える。その時。「――あれは、子供?」少し離れたところに、小さな子供がぽつんと立っていた。見間違いだろうか、ともう一度よく見つめてみるがどうやら見間違いではないらしく、そして子供の方もこちらを見ているらしいことにアニは気づいた。「ってあの子、傘も差してないじゃない!」濡れちゃう、というかたぶん既に相当濡れている。そう思うよりも早く、アニは傘をひっつかむとキャラバンから降り、子供のもとへ駆け寄っていた。アニは子供の側まで来ると、ゆっくりと傘を前に差し出した。そこにいたのは黒髪でややつり目ぎみの、歳は5つほどといったところの男の子だった。服装は簡素なもので、どこかの村の子供と見られた。子供はアニが近づいても逃げることもなく、ただじっとアニを見つめている。「ぼく、どうしたの?お父さんやお母さんは?」アニが尋ねるが、子供は黙ったまま。そんな反応にアニは戸惑うが、しかしこのままこの子供を放ってはおけない。「とりあえず、そんなびしょ濡れじゃ風邪ひいちゃうから、そこのキャラバンまで来てくれるかな、ね?」そう言って子供の肩をそっと押すと、返事はないものの子供が促されるまま着いてきたので、アニはひとまずホッと胸を撫で下ろす。キャラバンの中へ避難すると、アニはタオルでその子をわしゃわしゃと拭いた。「これでなんとか……流石に子供服は積んでないんだけど、大丈夫?寒くない?」アニの問いかけに、少し間をおいて子供が答える。「……ありがとう」やっと子供が返事をしてくれたことが嬉しくて、アニの表情がぱっと明るくなる。「どういたしまして!……それで、君はあんなところで何をしてたの?」「…………なにもしてない」「そ、そっか……まさか、迷子じゃないよね?!」少しの間黙った後に、子供が口にした答えはアニを脱力させたが、脱力するも嫌な可能性に思い当りアニは焦って尋ねる。そんなアニとは対照的に、子供は顔色一つ変えず答える。「家は、わかる」「ならよかった。でも、おうちの人が心配してるんじゃない?」「大丈夫」「…………」この状況で、こんな小さな子供の「大丈夫」を真に受ける人間はいない。アニはひとしきり唸ったのち、ポンと手を叩いて言った。「じゃあ、少しここで雨宿りしていかない?今外に出たらまたびしょ濡れになっちゃうし」雨宿り、などとは言ったものの、この雨がしばらく止まないだろうことは想像がついた。何はともあれ少しの間様子を見て、状況が変わらなければ、一緒に保護者を探すなり家まで送り届けるなりすればいいだろうと算段を立て、アニは子供に笑いかける。子供はわずかに悩むような素振りを見せたが、アニの笑顔を見上げると、コクリと頷いた。 帰りたい。 でもまだ帰れない。ぴちょん、ぴちょんと不規則に落ちる雫の音を聞きながら、アニは外の様子を窺っていたが、この身元不明の男の子の保護者らしき人物が現れる気配はなかった。その間、子供はキャラバンに積まれた商品を物珍しそうに見てまわっていた。イナコの民芸品など見るのは初めてなのだろう、木彫りの像をしげしげと眺める子供の姿に、アニは微笑ましい気持ちになる。しかし、こうしていても埒が明かない。きっと家族も心配しているだろうし、早く家に帰した方がいいだろうと判断したアニは立ち上がり、子供に声を掛ける。「ちょっと待っててね」アニはマントのフードをかぶり外に出た。雨の中でも手際よくキャラバンに馬をつけ、出発の準備をする。荷物を抱えて入り口にまわると子供が出迎えるように立っていた。アニはただいま、と告げると抱えていた荷物を下ろし、ふうっと息をつきながらフードを脱ぐと、顔についた雫を手で拭った。「さて、そろそろ君のお家へ出発しようか」そのためにはこの子に家までの道筋を説明してもらわなきゃならないんだけど。そんなことを考えながらアニが子供へと向き直ると、子供は何か言いたげに口を開きかけた。「……こっち」子供がそう言って手を伸ばす。どうやらアニを呼んでいるらしいので、アニは首を傾げながら子供へと近づいた。「顔…………」子供はなおも手を伸ばし続けている。アニは訝しみながらも身を屈め、子供の方へ顔を寄せた。至近距離で二人の目が合った。子供の瞳が、外の光を受けてきらめく。その色がまさに今の雨模様の空の色のようだとアニは思った。そして、思うと同時になぜか一人の騎士のことが頭に浮かんだ。真面目で、責任感が強くて、頑張りすぎなくらい頑張って職務を果たしていて。普段はあまり表に出さないけれど、本当は優しい心を持っている――無意識に今この場に無関係な人物のことを思い出していたことに気づき、アニは思考を中断する。その瞬間、子どもの小さな手がアニの頬に触れて、どきりとアニの鼓動が跳ねた。「顔に、泥がついてる」「……あ、ありがとう」原因不明の動揺を無理やり落ち着けて、アニはお礼の言葉を述べた。そして、ふと泥を拭い取ってくれた子供の手に目を向けた。「でも今度は君の手が汚れちゃったでしょ?」ハンカチで拭いてあげようと手を差し出すアニに、子供が言う。「洗えばいいんだよ」言うや否や、子供はアニの横をすり抜け、キャラバンの外へと飛び出した。そして、雨の中腕を前に突き出して、いたずらっぽく笑う。「ほら」「……それ、全身ずぶ濡れになるから!」一瞬あっけにとられたアニだったが、すぐに気を取り直すと子供を追って外に出た。アニは子供を中へ連れ戻そうとするが、先程までの大人しく留守番していた様から一転やんちゃ坊主と化した子供は、アニの手をするりと躱して雨に濡れながら駆け回った。子供のはしゃぐ様子に、アニはその子供の素の姿が見られたように感じ、自然と口元が綻んだ。しかし、いつまでもこうしていては本当にお互いずぶ濡れになってしまう。どうしたものかと思案したアニは、この状況にぴったりな物がキャラバンにあることに思い当る。しばしキャラバンの周りを跳ね回っていた子供が、不意に頭に何かをかぶせられて動きを止めた。いつの間にか子供の後ろにいたアニが、子供に雨ガッパをかぶせたのだ。その可愛いらしいカエルの顔が描かれた子供用のカッパは、アニが最近仕入れたキャラバンの新商品だった。突然のことに目を白黒させている子供にアニは言った。「それは私からのプレゼント。これなら帰り道も濡れないでしょ?」子供が腕をぱたぱたと動かすと、黄緑色のカッパもバサバサと音を立てる。しばし自分の身体を包むそれを見つめていた子供が、困ったような顔でアニを見上げた。「……あれ、もしかしてお気に召さなかった?デザインが好みじゃなかったかな?品質には自信があるんだけど……」「……お金、ない」アニの言葉を否定するようにかぶりを振って、子供は呟いた。それを聞いたアニは相好を崩す。「なんだ、そんなこと。お代はいらないよ」そう言っても子供はまだ困ったように眉を下げているので、それならばとアニは言葉を重ねた。「こんなカッパいらない!っていう訳じゃないなら是非もらってほしいな。もしお代のことを気にしているなら……これからも、そのカッパをたくさん着てくれれば宣伝になるかからありがたいな」「宣伝……」「そう!口コミの効果って侮れないからね!」こんな幼い子供に「口コミの宣伝効果」などと言っても理解できないだろうことはアニも承知していた。ただこれをもらってもいいのだと子供が感じられるよう、いかにも気安い調子で語りかける。アニは、羽織っているだけの状態のカッパを軽く持ち上げると、袖を通すよう子供を促した。「――うん、バッチリ似合ってるよ!」カエルのカッパを着た子供にアニは満面の笑みを向ける。すると、子供もつられたように笑顔を見せる。「ありがとう」子供の言葉に、アニは一層笑顔を深める。「もうあんな風に雨に濡れてちゃダメだからね」その言葉には相手を非難するような響きはなく、ただ心配し思いやる気持ちだけがあふれていた。「帰る」子供は唐突にそう言うと、踵を返して駆け出した。「え、あっ、ちょっと――」慌ててアニが追いかけようとすると、子供はくるりと振り返った。「……大丈夫」そう告げた子供の声が、幼い見た目には似つかわしくないほど落ち着いていたので、アニは思わず動きを止めた。「大丈夫」言い聞かすように繰り返す子供の顔は微笑んでいた。そして、子供は再びアニに背を向けると、黄緑色をひらめかせて走り出した。アニが我に帰り、既に小さくなり始めている子供の背中を追おうとした時、突然強い風がごうっと音を立てて吹き抜けた。風が止み、アニが伏せていた顔を上げると、子供の姿はもうそこにはなかった。キャラバンから離れ子供が走っていった方を探すも、アニはあの子供の影すら見つけられなかった。子供が走り去った方角を見ながら、アニはしばらくただぼんやりとしていた。一瞬で、まるで夢のように消え去った子供。アニは本当に自分は夢を見ていたのではないかという気がして頭を振った。そんなはずはない、とキャラバンに目を向ければ、確かにそこにあったはずのものがなくなっていた。「夢なんかじゃない」思い出すのは、黄緑色のカッパの下、幼くもどこか精悍な印象を与えるあの瞳。アニは何かを決心した表情で踵を返すと、借屋敷への帰路につくために、まずはグリまるを起こしにかかった。 帰れる。 きっと、もうすぐ。周辺の見廻りを終えた第一騎士団の騎士達が城へと戻っていく。雨に濡れた騎士達はやれやれと息をつきながら詰所の扉を開けた。「……お、お疲れ様です」出迎えたのは、騎士団の女神……もとい、イナコの姫。「イナコの姫!?いらしていたのですか!?」「どうした、大声出して……イナコの姫!?」騎士達は詰所にいるアニを見て驚きの声を上げる。アニはそんな騎士達に対して少しきまり悪そうな笑みを浮かべた。「姫、今日は城にいらっしゃる予定ではなかったと思いますが」最後に部屋に入ったリオットが、アニのもとへ歩み寄る。その眉間にはしっかりと皺が刻まれている。「すみません!でも、たまたまヴィーノに会ったので聞いてみたら『今は城を訪問しても大丈夫だと思う』って言ってここまで送ってくれたので……ご迷惑でしたらすぐ帰ります!」長い溜息がリオットの口から吐き出される。「姫はヴィーノ様の言う事を鵜呑みにされるのですか?」「……確かにヴィーノはちょっと信憑性に欠けることもありますけど、でも、こういう時にいい加減なことは言わないですよね」アニの言葉にリオットは再び溜息をつく。それは不承不承ではあるが無言の肯定を示していた。事実、非常時とは言っても、筆頭貴族に付き添われた国賓を城に入れられないほどの厳戒態勢というわけではない。「それで、姫はどういった用件でこちらへ?」「そうでした!皆さん、このタオル使ってください!雨で体も冷えていると思って、お茶の用意もしてあります」テーブルには山と積まれたタオルとティーセットが並び、ストーブの上ではケトルがしゅうしゅうと音を立てていた。アニにタオルを差し出され、一気に詰所の空気が緩む。「それだけのためにいらしたのですか?」「はい。大変な状況でお忙しい上にこんなお天気ですし、何かお手伝いがしたくて」リオットが毒気を抜かれたような表情になる。「床も濡れてるし、ついでに拭き掃除もしましょうか!」「いえ、掃除は我々で致しますので、姫はもうお帰りください」「そう、ですか?」「はい、もう十分お心遣いをいただきましたので」「あ……はい、わかりました」リオットの言葉にアニは顔を伏せる。ああ、これは自分の本意を誤解されている。そう感じ取ったリオットは、ひとつひとつ言葉を選びながらアニに告げる。「日頃から貴女にお気遣いいただいている事は、本当に嬉しく思っております。ただ、姫の身にもしもの事があってはいけない」アニはぱっと顔を上げると、勢いよく首を横に振った。「そんな、私が好きでやっていることですから!でも、これからは、もう少し気を付けます」「ええ、そうなさってください」リオットの表情が和らぐ。「では屋敷までお送りします」「えっ!そんな、一人で大丈夫ですよ」「たった今『気を付ける』とおっしゃったはずですが」「一人で気を付けるというのは……ダメですよね、ハイ」似たようなやりとりは今までにも何度もアニとリオットの間で交わされていた。そして、こういう時リオットは決して折れないことをアニは知っていた。ふふっとアニから笑みがこぼれる。「……では、参りましょう」「はい。皆さん、後片付けもせずすみません」すまなそうに頭を下げるアニに、騎士達は口々に声を掛けた。「いえいえ。お気遣いありがとうございました」「お茶、ごちそうさまでした」そうして、アニとリオットは詰所を後にした。外に出ると小雨がパラつく程度の空模様になっていた。あの子は無事に帰れただろうか。空を見上げそんなことを考えるアニだったが、リオットに呼ばれるとすぐに傘を開きその背を追った。いつもよりゆっくりとした歩調で小雨振る城下を歩むリオットはまだ気づいていない。しかし、大切なものは遠からず彼のもとへ帰るだろう――傘を並べ、やはり少しゆっくりと歩いている大切な存在を道標にして。(了)■あのキャラバンのお客さんが幼少期リオットに似てるよね…という所から妄想を膨らませてできたお話。子供の正体についてはあまり深い設定はなく、なんとなく、今のリオットが忘れている決意とか想いとかが、思い出してほしくて彷徨ってるようなイメージで。やがて天使アニちゃんが二人?を結び付けてくれるわけだ…