② DxP 2018年04月27日 続きました。前の話はこちら。リオアニ転生ネタ、詳しい注意書きは前話に。ここまでで起承転結の起ってところです。転のところがどうにも…な感じだけど完結させたい。最後に思う存分いちゃいちゃしてほしいしね!! ■「……っていうことがあったんだよ」「へえ~、で、どうするんだい?」グルカオンの中心街から少し離れた場所にある宿に戻ったアニの周りには、今回行動を共にしている商人仲間が集まっていた。「最初は無茶なって思ったんだけど……よくよく考えてみたら悪い話じゃないかなあって」「えっ!? じゃあその仕事受けるのかい?」「もう一回会って、ちゃんと話を聞いて決めようと思うの」年長の女商人がすかさず口を挟む。「やめておきなよ。うまい話を持ち掛けてきて、裏で何考えてるかわかったもんじゃないよ」うんうん、と同意する仲間たち。「真面目そうだし、悪い人には見えなかったけど……でも、変な事は言ってたかも」「ほうほう、どんな?」「聞き間違いじゃなければ、姫、……って」「姫? この国に姫はいないだろう?」「大丈夫か? その人」「何だい、童話が欲しかったのかい」商人達が疑問符を浮かべる中、初老の男商人がカラカラと笑いながら言った。「おじさんの古書には童話もあるんですか?」「もちろん! アニちゃんが小さい頃読んでたようなおとぎ話もたくさんあるよ」その言葉に、アニが瞳を輝かせる。「わあ、素敵! ……憧れたなあ、お姫様。きれいなドレスを着て……」「大きなお城に住んで?」「そうそう! それで、馬に乗って迎えに来るの!」「王子様が」「騎士様が!」「あれ……?」目をぱちくりしているアニに、商人達からコメントが寄せられる。「そこは『王子様』だろう」+++翌日、その男は、自身の言葉通り再びアニの前に現れた。長身に漆黒の軍服を纏い、腰には軍刀を帯びたその出で立ちと、何より灰青色の鋭い瞳が見る者に威圧感を与える。アニと対峙して、男はわずかに眉根を寄せた。会うなりそのような表情をされ、解せない、と思うアニに男が言った。「……まさか本当に来るとは思わなかった」「呼び出しておいてそれですか?!」「あのように一方的な話では、不審がられても仕方がないと後になって思った」「そこに気づいていただけてよかったです!」得体の知れない人物と会うということで、少なからず緊張していたアニの全身から力が抜ける。アニは気を取り直して背筋を伸ばすと、まっすぐに相手を見た。「お仕事の話、条件によっては悪くないかなって思ったんです。なので今日はもう少し詳しい話ができればと思って来ました」「……そうか。まあ、結果的に引き受けてもらえるのなら、こちらとしても言う事はないが」「そのためにも、いろいろ聞かせてもらいたいです」「わかった」その返答を受けアニは、それでは、と、最初に訊こうと決めていた質問を口にする。「まず……そろそろお名前を教えていただきたいんですが」男がはっとした表情になる。そしてゴホンとひとつ咳払いをし、「……これは失礼。私はリオット、ミリドニア国軍第一部隊の隊長をしている」と名乗った。「第一部隊の、た、隊長?!」その見た目から男が軍人であることはわかっていたアニだったが、隊長などという地位ある人物とは想像しておらず、その顔に不安と焦りの色が浮かぶ。「そう萎縮することはない」リオットに言われ、アニはほっと息をついた。「ありがとうございます、リオット様」それを聞いた瞬間、リオットの眉がピクリと動く。「え、あ、すみませ……」「……では、お前に任せたい仕事についてだが」一瞬の表情の変化もアニの思わずもらした謝罪も、丸々全て無かったかのようにリオットは会話を続ける。「やっぱりよくわからないよ、この人……!」誰にも聞こえないくらいの小声で零しつつ、アニはリオットの話に耳を傾けた。「なるほど、長年お世話をしてくれている使用人さんに休暇をあげたい、と。意外とまとも……いえ、そんな事情があったんですね」「ああ。そして、これが仕事内容だ」リオットが1枚の紙を差し出す。そこにはアニが臨時使用人となった際に任される仕事内容のほか、勤務時間や給料などがまとめられていた。「これ、リオット様が用意してくださったんですか?」「そうだが、何か不明な点はあるか?」「いえ、むしろ一晩でこんなにしっかりまとめていただいて、何だか恐縮です」「雇う者として当然の事をしたまで」アニは書類に目を落とす。きれいとは言い難い文字が強い筆跡で綴られているその書類に、必要なことは全て書かれているようだった。「ありがとうございます。じゃあ、確認させてもらいます」数刻後、アニは貴族街の一角にある屋敷の前に立っていた。それは、周辺に立ち並ぶそうそうたる屋敷群に比べれば控えめではあるものの、一人で暮らすには十分すぎる規模の屋敷だった。庭の芝生や植え込みも青々としていて、よく手入れされているのがわかる。屋敷に軽く感動しているアニに、リオットが声を掛ける。「私が言うのも何だが、こんなに早く決断していいのか?」「はい! 『商機は逃すな』がモットーなんです。貴重な機会ですから、いろいろ勉強させてもらいますね!」笑顔でそう答えたアニを見て、リオットはわずかに目を細めた。「……そうか。では、これからよろしく頼む」「はい、こちらこそよろしくお願いします!」こうしてリオットの臨時使用人となったアニは、リオットの屋敷へ足を踏み入れた。その日は、現在の使用人との顔合わせとリオットによる屋敷の案内がなされた。使用人の老夫婦は穏やかで優しそうな人物で、明日から仕事を教わるアニは心の中で安堵した。「お屋敷勤めって、もっとこう、お掃除をしたり食事を作ったりっていうのを想像していたんですけれど、そういう仕事がメインじゃないんですね」「私は仕事柄自宅に帰らない日が多い。よって掃除や洗濯、炊事をすることはそう多くないだろう。その代わり、郵便物の受け取りと仕分けはしっかりとやってほしい。まあ、詳しいことは明日教わるように」「わかりました」そう返事をしたアニは、「でも、お家に帰れない日が多いなんて、やっぱり軍人さんは大変なんですね」と、気遣わしげにリオットを見た。「長年この生活をしている。特に不便はない」「そ、そうですか」どこか少しずれたリオットの返答に、アニは思わず苦笑する。「それより、そろそろ日が暮れる。お前はどこに滞在している?」リオットに言われ、アニは屋敷に来てから随分と時間が経っていたことに気づく。「もうそんな時間だったんですね。私、今は6番街の宿に泊まってます」「6番街……かなり距離があるな」リオットが顔をしかめる。「……この近くに宿がある。部屋を手配するから、やはりそこに移ってもらおう」リオットの提案もとい業務命令にアニが目をむいた。「ええっ! それは無理ですよ!」「何故? ……もしや、宿泊代の心配をしているのか?」「うっ、お恥ずかしながら、その通りです……」その答えを聞いて軽く息を吐くと、リオットは落ち着いた声で言った。「こちらの都合で住まわせるのだ、宿泊代は私が全て持つ」「そんな! さすがに申し訳ないです」「遠慮するようなことではない。こちらの方が治安も良いし、通うにも便利だろう」「それはそうですけど……本当にそこまでしていただいていいんですか?」リオットの正論に押されるアニ。「問題ない。明日には移れるように手配しよう」「リオット様がそうおっしゃるなら……。どうもありがとうございます」アニが素直に礼を述べると、リオットはうむ、と頷いた。去り際にもう一度振り向きお辞儀をして、アニは宿へと帰っていった。その後ろ姿をリオットは見つめる。顔も声も全く同じ少女の姿がそれに重なり、やがてぼやけて消えた。「俺は、何をしているんだ……!」ぎりっと歯を食いしばる。「それでも、私は…………」苦しげに顔を歪めたリオットの呟きは、誰に届くこともなく夕暮れの空に溶けた。